イラン北西にあるタブリーズは、ヨーロッパとアジアを結ぶ幹線上にあり、古くから交易の重要な地でした。
サファヴィー朝の最初の首都で、その当時、絨毯生産の中心でした。
1890年頃、大規模工場による絨毯生産に着手し、外国商人と連携して世界市場へ輸出し、サファヴィー朝崩壊後に低迷していた絨毯生産の復興に、タブリーズ商人の果たした役割は大きなものがあります。
タブリーズの絨毯は、トルコ結び(ダブル結び)の絨毯で、二本のたて糸のあいだにパイル糸をはさみこみ、左右均等に絡めて結んで織っていますので、丈夫です。
色づかいは、ベージュを中心にボーダー柄やピンク色、ローズ色のものが多くあります。絵画や写真のような絨毯も織られています。
テヘランの南に位置する聖地コムは、「コムシルク」といわれるように、シルク絨毯の産地として有名です。
絨毯産地としては比較的新しく、1930年代ごろから、近くの産地カシャーンより技術を受け継ぎました。
コムの絨毯には、伝統柄というものはなく、狩猟文様やパネル文様(ヘシュティー)が多く見られましたが、バラや細かい花柄の鮮やかな色のものも織られています。
最近、織りの技術がさらに向上し、より良い素材が使われ、新しいデザインのものが増えています。
テヘランとイスファハンのほぼ中間に位置するカシャーンは、古くから工芸の町として知られ、サファヴィー朝時代、宮廷工房もおかれ、数々の絨毯の名品が製作されました。その技術の高さは、「カシャーンから来た人」という表現が、最高の賛辞とされてきたことからも、うかがい知ることができます。
カシャーンの絨毯は、厚みがあり、やわらかく、耐久性に優れているので、もともとイラン国民が日常的に使っており、良い絨毯として認識されています。
「踏めば踏むほどよくなる」という言葉は、カシャーン絨毯に向けて言われた言葉です。
イスファハンの東、小さなオアシスの町ナインは、かつてウールの伝統的衣服の産地でした。この産業の衰退により、イスファハンから絨毯づくりの技術がもたらされたのは1920年代のことです。
ナインの絨毯は、ベージュが多く、色の数が控えめで、落ち着いた色合いです。
ウールで結びが細かく、シャー・アッパース文様やパルメット文様など花のデザインが多く見られます。
イラン中部、ザグロス山脈東にある古都イスファハンは、サファヴィー朝第5代シャー(王)・アッバース1世が遷都し、その繁栄を「イスファハンは世界の半分」と称えられました。宮廷工房もおかれ、絨毯づくりの伝統もその当時より引き継がれ、今もイラン第一の産地として、格調高い絨毯づくりがおこなわれています。
イスファハンの絨毯は、赤色と青色のコンビネーションの色使いが有名です。
たて糸にシルクを使い、上質なウールで丈夫であり、エスリミ文様(唐草文)のデザインが特徴です。
イラン東部に位置し、アフガニスタン、パキスタンに接しています。
この地方の羊毛は質がよく、絨毯、敷物の製造が重要な産業となっています。
ビールジャンドの絨毯は、肌ざわりが柔らかく、カシャーンの絨毯よりもより厚みがあります。
タブリーズ地方のマヒ(ペルシャ語で魚の意)文様とも呼ばれるヘラティ文様やヘシュティー(パネル文様)が有名です。
イラン南東部、オアシスの点在する乾燥地帯に位置し、かつてカシミールと並ぶ世界的なショールの産地でした。サファヴィー朝のころ、絨毯づくりが盛んになったといわれています。
ケルマンの絨毯は、楽園をイメージして、多くの花がデザインされています。
繊細な織りとやさしい色調が特徴です。
アフガニスタンは、イラン、パキスタン、中国、タジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタンに接しています。
アフガン絨毯の中で、人気のある絨毯は、トルクメン族によって、コルクウール(子羊の最高級のウール)を使い、ペルシャ織りで織られたアフガンベルジク(Afghan beljik)と呼ばれる絨毯です。深い落ち着いた赤色が特徴的です。
特に、ハージ カール モハンマド(Haji Khal Mohammad)師によりデザインされ、織られた絨毯は、カールモハンマディ(Khal Mohammadi)絨毯として有名です。
ハザラ民族によって、パキスタンで織られています。
Chobi Choobi Choubiなど様々な表記があります。
ジグラル(Ziegler 英語読みではジーグラー、ドイツ語読みではツィーグラー)チュービとも呼ばれています。
手で紡がれたウール(ハンドスパンウールhand-spun wool)で織られ、表面がかたく、耐久性にすぐれているので、靴を履いたままのライフスタイルである欧米で人気です。
ギャべ(ギャッベ)は、イラン南西部に位置するファールス州の遊牧民カシュガイ族などによって織られています。
山岳地帯で、テントの中に敷いて、その上で生活するために手織りされた絨毯なので、毛あしが長く、厚みがあり、丈夫です。
遊牧民が、自分たちの生活のまわりにある模様を一枚一枚のギャベに織り、もともと図面やデザインなどをおこさず、イメージで織られているものであるため、世界で一点しかない絨毯として知られています。
糸は、自分たちで育てている羊の毛を使い、染めは、まわりの植物を材料にしているのがギャベの特徴です。
最近、ランクの高いギャベが求められ、糸の素材の品質が上がり、より細かく高密に織られるようになったので、デザインも細かく入れ込むことができるようになりました。デザインをおこして織られるものもございます。
パキスタン北東部、インドとの国境の近くに位置するラホールの限られた工房で織られています。
高級なニュージーランドのウールを使っています。結びが細かく、現地で“じゅういちのにじゅうに”と呼ばれていますが、
およそ1平米あたり約40万結びで織られていて、丈夫であり、柔らかくて軽いため、動かしやすいのも人気です。
色の数が控えめで、落ち着いた色合いです。
パキスタン南部、アラビア海沿岸に位置するカラチで織られています。
ローカルウールを使い、模様の部分的にシルクの糸も使われています。
素材と独特な洗いによって、シルクのように肌ざわりがよく、光沢があるので、シルクタッチと呼ばれています。
柔らかく、重くないため、動かしやすいポイントも人気です。
現地で“くのじゅうはち”と呼ばれていますが、およそ1平米あたり約26万結びで織られています。
色の数が控えめで、落ち着いた色合いです。ジャルダール文様が多く見られます。
ジャルダール文様とは、トルクメン人の代表的部族サリークSaryk (Saryq) とヨムートYomut (Yomud)の伝統的
なデザインからインスピレーションを得てパキスタンで生まれたデザインです。
現地のメーカーによると、“ジャル”→ネット、“ダール”→持つ、“ジャルダール”とは「ネットを持つデザイン」
と現地で言われていて、「ネットで守ってます」という意味だそうです。
シールドでカバーしているようなイメージでしょうか・・・
イラン中央部、ゾロアスター教の聖地として知られています。
ヤズドの絨毯は、カシャーン風のデザインですが、カシャーンの絨毯より落ち着いた色合いです。
柔らかい素材を使っているので、カシャーン絨毯よりソフトな肌触りです。
イラン南西部のザクロス山脈の山中に住むバクティアリ族によって織られています。
草木染めの絨毯を織る数少ない産地です。
中央に1本のイトスギ(糸杉、サイプレストCypress、セイヨウヒノキ 西洋檜 ともいう)、または立湧(「たてわく」、「たてわき」、「たちわき」)文様の二本の曲線がふくらんでいるところにイトスギなどがデザインされているものが有名です。
イトスギは、生命や豊穣のシンボルといわれています。
イラン北西部クルディスタン州の主要な町です。
ビジャールの絨毯は、使われている素材や織りかたにより、厚みと重さがあり、耐久性に優れていので、ペルシャ絨毯の中で「鉄の絨毯」と呼ばれます。